2020年8月22日土曜日

市立川口高校の「学校選択問題」導入を思う

市立川口高校が来年度の受験から学校選択問題(以下選択問題)を導入するという。

倍率が下がるのではないか? 僕がまず思ったのがそれだった。

 

なぜ、市立川口高校は選択問題の導入を決めたのだろうか?

それを書かせていただく前に、市立川口高校が今年の入試まで使用していた学力検査問題(以下学力問題)と来春の受験から導入される選択問題の違いについて、書かせていただきたいと思う。

 

学力問題も選択問題も国語・理科・社会の3教科は共通のものが使われている。

だったらそれほど大きな違いはないのではないか?と思われる方もいるかもしれない。でもこの二つの入試問題は大きく違う。

 

学力問題の得点を上げるのには、選択問題に比べて長い時間を必要としない。

市立川口が選択問題を採用したいま、県南の高校で一番の高得点を必要としているのは浦和南高校だと思われるが、そこであっても合格に必要な得点は一般的な内申点であれば280290点ほどになるのではないかと思われる。

もしも280 点だとすれば1教科56点、入試問題は100点満点であるから、56点といえば半分ちょっとの点数になる。ということは、浦和南高校は学力問題の入試得点で半分ちょっと以上の得点が取れれば合格点となる。

市立川口高校は、ほぼこの浦和南高校と同程度のレベルであると思われるから、いま市立川口に通っている生徒たちは入試で各教科半分ちょっと、合計で300点弱の得点以上を取った生徒が通っているはずである。

 

ここである状況が思い浮かんでくる。

毎年1月の末、私立入試が終わると、シローズでは公立入試過去問題の演習を行っているが、僕は市立川口や浦和南、そして越谷南を受験する生徒にこんな言葉をしきりに伝えている。

「全問を解こうとしない方がいい。6割の得点が取れればいいのだから、4割は捨てていいんだよ」

僕は、その時期に毎年同じような言葉を生徒たちに伝えている。もう10年くらい言い続けているかもしれない。

 

そうすると、生徒たちは解き方を変えだす。

これまでは全問題を解こうとしていた生徒たちは、解けそうな問題を探し始める。そして解けない問題を残しながらも、安定した点数を取り始める。

半分ちょっとの得点を取ろうとするとき、学力問題はある程度以上の学力を持つ生徒にとっては、比較的短期間で得点を積み重ねることができる入試問題なのだと思う。

 

でも選択問題は、こうはいかない。

とくにこの地域の中学生の場合は、尚のこと。時間と労力をかなり要することになる。

毎年県入試まであと半月となった頃、僕は比較的学力問題の高校を受験する生徒たちを落ち着いて見ているような気がする。でも選択問題の高校はそうはいかない。直前までバタバタしながら、僕も不安になりながら、生徒たちを見守ることになる。

 

選択問題の何が学力問題と違うのかと言えば、英語は中学では習わなかった英単語や言い回しが出される。そして長文を解くにはかなり経験が必要となる。

数学は、最近はほとんど中学校の例題的な問題が姿を消した。数問出される計算問題も、中学の教科書やワークの類に載っている問題とは違う。

つまり英語でも数学でも、この地域の中学生であれば、やはり特別な勉強が必要となってくる入試問題なのだと思う。

 

英語では語彙力が関わってくるし、長文を読み取る力がどうしても必要となってくる。ということは英語力だけではない国語力の有無が得点を左右することになる。

数学では問題を作っている要因が学力問題に比べて、かなり増えるような気がする。いくつもの事項を頭の中で、持っている知識を使いながら、同時進行でいくつもの事項を考え、それを使って答えを出す力が必要となっている。

 

そしてこの地域の中学生たちは、保護者もそうだと思うが、選択問題を敬遠する向きがある。

まだ8月だから、それほどでもないかもしれないけれど、これから年末に近づくにつれて、選択問題を実施している高校への受験を心配する気持ちが増してくるようだ。

というのもこの地域では、中3生たちが二学期以降、数学や英語の偏差値を大きく下げる生徒が続出することになる。とくに数学の落ち込みは大きい。

9月から12月まで、偏差値を下げる生徒は半数近いのではないか?などという信じられない話は毎年のように伝わってくる。

そんな中で、どれだけの生徒が選択問題の高校を受けるのか? 多くの中学生たちが不安を募らせていく中で、同レベルであれば、選択問題を採用する高校よりも学力問題を採用する高校を選ぶご家庭は多いはずである。

 

ここで疑問が生じる。

2020年度の入試で、市立川口高校は倍率を大きく下げている。2018年度、2019年度と普通科で1.5倍台、理数科で2倍を超える高倍率だったのが、普通科で1.2倍、理数科で1.4倍まで下がってきている。唯一文理スポーツ科が2019年度に1.5倍だったのが2.1倍まで上がった。

2019年度に理数科は川口北と完全に並んでいる。2020年度の資料はまだ手元に来ていない状況だが、理数科と言えども、もう川口北のレベルではないだろう。

そんなときの選択問題の導入は、やはり腑に落ちない部分がある。

倍率がこれ以上下がってしまったとしたら、下がらないまでも1.7倍以上の高倍率が続かなければ、高校の難易度の上昇はない。

もしかしたら教員間の決定ではなく、学校の外から強い圧力があったのかもしれない…などと想像を支度もなる。

 

もしも選択問題の導入によるメリットがあるとすれば、それは大学受験に有利な生徒は見つけやすくなることなのかもしれない。

学力問題の問題では、どうしても入学後の成績やとくに大学入試の学力を測れない部分がある。例えば学力問題の数学で80点以上の得点を取った生徒が理系の大学に向いているかなどは分からないという事情がある。

それほど学力がない生徒であっても、点数の取り方で高得点が取れるのが学力問題との見方ができる。

それが選択問題となることで、より受験生たちの本当の学力が見えやすいものになるのかもしれない。

生徒たちの学力をきめ細かく見ることができれば、より大学入試の指導に役立つものになるから、そのための選択問題導入なのかもしれない。

 

ただやはり、頭の中でどうしてもクエッスションマークが点滅してしまうのはなぜだろう?

市立川口高校は、大学進学を強くアピールしている高校である。

入学試験前の説明会でも、在校生に対して中堅ではない上位大学への進学を強くアピールしている高校である。

市内ではもう一つの進学校である川口北があるが、アピール度では川口北を完全に上回っているのではないか。

その結果が、来春に出る。新市立川口高校になってから入学した生徒が初めて来春卒業生を送り出すことになる。

どれくらいの合格実績になるのだろうか?

 

これは私の持論であるが、大学受験を目指すには高校入試時に偏差値65が必要なような気がしている。5教科でも3教科でもなく、英語と数学がともに65を超えていることが必要条件であるような気がする。

私は高校受験のことしか知らないから、大学受験については常識の範疇以上の情報を持っているわけではないが、塾に来ていた元生徒たちで中堅以上の大学に合格した元生徒たちは、ほぼ全員が高校入試時に英語と数学で65の偏差値を持っていた。どこの高校に進学したかではなくて、その生徒が持っている勤勉性や逞しさのような気持ちの方が、大学受験のの結果に大きく関わっていたような気がする。だから進学した高校と大学受験の結果は、僕が接してきた元生徒たちの状況では、それほどの関連性はないのしれない。

 

現在の市立川口高校は、圧倒的に英語と数学の偏差値が65以下の生徒で占められている。

もしも進学校としての評価を得ようとするのなら、入試問題の変更などよりも偏差値65以上の生徒をどうやって集めるのか? そのことの方が重要なような気がするが、これを読んでいる皆さんはどのように思われるのだろうか?

やはり僕の中では、今回の市立川口高校の選択問題の導入は、理解できないもどかしさがある。