2015年9月27日日曜日

安行中 my Love「変えられない・変わらない」こわい話

夏期講習会の最中、どうにもエンジンの掛からない中3生たちを前に、塾長である僕はこんなことを口にしていました。
「この中で1学期の通知表に2があった人?」
前回行ったテストの解説を取りやめて、急にそんな言葉を口にする僕に対して、僕の目の前に腰を下ろす生徒二人が怪訝そうな顔をしています。僕はその二人の視線を無視するように、言葉を続けました。
「1学期の通知表で2があった人、手を挙げてみて…」
僕のその声で、そのクラスにいたほとんどの中3生が手を挙げました。
「こんなにいるんだ…」
とは、驚いた僕が、思わず口にした言葉だった。
「でも俺、1はない」
いつも人気者のT君が言うと、周りの生徒たちが、何人かほっとしたような顔をした。思わず苦笑いを浮かべた僕が、言葉を続ける。
「1も2も、まぁ一緒なんだよ。高校側に、何か問題のある生徒だと思われる可能性がある」
僕の前に座る生徒たちが、塾長何言ってるんだ? との奇異な感じの表情をしている。そうなんだ…。きっとそうなのだと思う。2や1が付くことに、いまの子供たちは劣等感や恥ずかしさの感覚を持ち合わせていない。このことが、この問題をより複雑にしているのだと思う。
自分は2があるけれど、◯◯くんたちは1を取っている。だからいいとは思っていないだろうけれど、その事実で気持ちを楽にしている部分はきっとある。前述の1はない…という言葉は、たぶんそんな彼らの本音なのだと思う。

もしかしたら数年前からなのかもしれないが、今年のこの地区の中学に通う子供たちの中で、通知表で2や1が付いている子供たちが急に増えてきている。1の生徒の割合は分からないが、通知表に一つ以上の2が付いている生徒の割合は確実に4割を越えているようだ。5割くらいの生徒たちに2や1が付いているのではないか…という人までいる。
相対評価の時代(2000年くらいまで、2002年から絶対評価が導入された)、2の数は全体の24%が目安(5が全体の7%、4と2がそれぞれ24%、3が38%)であった。絶対評価となり、教育目標に対する到達点を図る意味合いになっていることを考えると、この地区の中学校では、教科によっては担当する教員の目指す到達点に届いていない生徒が4割から5割いるということのかもしれない。
それにしても4割から5割という人数は、あまりに多すぎるのではないか。知り合いの県内の私立高校の先生は、「嘘ですよ…」という言葉を口にし、もう一人の県内で教育研究所の代表を務める方は、「何か普通ではないものを感じる…」という言葉を口にしていた。
おそらく2や1が付く生徒の数は、普通では1割から2割、多くても3割まではいかない…というのが、県内の中学校の現状であるようだ。

話を夏期講習会の一コマに戻します。
僕は言葉を続けた。
「2があると、たぶん私立の確約が出ない…」
僕のその言葉で、何だか自分たちがまずい状況にいることに気づいたようだ。ただ彼らはまだ、何がまずい状況なのか?ということを理解してはいない。
僕はそのことに気づいて、また話し始める。
「皆んな、たぶん公立を目指していると思うけど、もしも公立が不合格だったときのために私立高校を受けておく。私立の入試は1月22日頃からだけど、実際は1学期の通知表と、7月から11月までの北辰テストの結果で合否が決まっている。それでそれは確約と呼ばれているのだけれど、基準がある」
何人かが、先ほどよりも真剣な眼差しで僕を見ている。
「その基準は1学期の通知表だとオール3以上、または偏差値50以上。これってどちらでもいいんだ。皆んなのように通知表に2や1がある人だと、2学期の通知表を待っていられないから、偏差値を50以上取るしかない…」

確かに僕は、彼らを前にそんな話を夏期講習会中に何度かした。したけれど、2学期が始まり、そろそろ中間テストが近くになってきている今日現在、皆んなが必死に学習に取り組んでいるかというと、少しの改善の様子は出てきてはいるが、まだまだ僕たちシローズの講師たちが望んでいる状況にはなっていないようである。

これって、たぶんこういう状況なのではないだろうか…。
どの子も生まれ、皆んなが家庭の中での主人公から集団生活に入り、自分はその中でいつも主人公ではないという事実を幼稚園や保育園の時代に感じ取り、でもそうした集団生活の楽しさを感じ取った小学生低学年の時代から、もしかしたら彼らは少しずつ、先生方の指示にそれほど従わないで生きてきたのではないだろうか? 何だか、そんな空想を僕に感じさせている。そうでもなければ、こんなにも通知表に2が付いている生徒が多いなんてことにはならないはずだ。
これは決して彼らに非があるということを、僕が声を大にして訴えたいというのではなくて、集団という「皆んなだってやっていない」との理屈の中で成長し、中学に入学していきなり多感な時期に突入した彼らにとっては、そのことを訂正する余裕などなかったのではないだろうか。

もしもそれが正論であるならば、AKBの実施や「安行中学校はいじめがない…」「安行中学校は素晴らしい中学校だ」などという主張などよりも、もっと根本的な対策が必要となっているということを、多くの大人たちが感じなければならない時期にきているのではないか。

約半数の生徒の通知表に2があり、1割から2割の卒業生が高校を中退している。その事実に、もっと大人たちは真剣に向き合うべきだろう。