今年もシローズを去る先生が3人います。そのうち2人は、まだ4月からも学生であるわけで、ときどきはレギュラーの先生が都合の悪いときなどに顔を見せてくれると思うのですが、YS君は4月から社会人となりますので、サヨナラとなります。大学生の4年間、それから大学院の非常に忙しい2年間、お世話になりました。そして新たに4月から大学生になる新しい2人の元生徒である先生たちが、小中学生の皆さんの指導をしてくれることになっています。
新しい先生たち2人を、私はとても期待しています。もちろん2人とも良い子たちですし、シローズで頑張って成績を上げた子たちですから、きっと生徒の皆さんに良い影響を与えてくれるものと期待しています。
ただちょっとだけ残念なのは、新しい先生の中に、私が気になる「彼」がいないことです。「彼」というのは、以前facebookに書かせていただいた元生徒である「彼」です。
もう「彼」と呼ぶのはやめにして、「ヤツ」と呼ばせていただきます。
「ヤツ」は中3の1学期の終わりまでは、問題の多い生徒でした。自分勝手で、まるで世の中が自分中心に回っているとでも言いたいような世間知らずなのに、妙に友だちに愛されているような男の子だった。そう、かつての生徒で大学時代に先生をやってくれたお兄ちゃんたちとは違う、末っ子ならではの無鉄砲さもあったように思う。
「ヤツ」が変身したのは確か中3の夏休み前でした。つまらないことで私と口論になったとき、一歩も引かない彼と、また一歩も引かない私。そんな私たちを、周りにいた先生たちは苦笑いを浮かべながら、遠巻きに見ていました。私の胸と彼の胸がぶつかっても、彼も一歩も引きません。たぶん彼のルールではそれは許されるべきこと、でも私からすると、それを許したら彼だけ特別扱いになってしまう。生徒はみんな平等である。もしも誰かに特別扱いをするのなら、その子には特別な努力を見せてもらわないと…、それが私の考えです。
そして授業の開始時間になって、私は「ヤツ」に言いました。
「あなたはこのクラスの中では2軍でしょ。いわゆる補欠ですよ。サッカー部の補欠がね、部室でそんな大きな顔をしていたら、みんなに怒られるでしょ」
確か私は、そんなことを言った記憶があります。
それがどう彼に影響したのかは分かりません。ただ一週間ぐらいしてから、彼の態度は明らかに変わりました。もちろん自分だけ特別扱いをしてもらう…という彼のスタンスは変わりませんでしたが、めちゃくちゃ努力をし始めたのです。
朝は6時過ぎに塾に来る。夜10時の授業が終わっても帰らずに、残って勉強をする。それを彼は3月のはじめの公立の受験まで続けてくれました。ただあい変わらず、彼は自分が特別扱いをされることを、気づかぬうちに望んでいたようです。勉強道具を片さずに中学に行く。そろばんクラスの授業をするために教室に入った家内が、彼の荷物を片さないと仕事に入れない。そんなことも何度かあったようですし、塾の鍵を彼に貸していたのですが、ある日鍵を忘れた彼が、早朝私の母をチャイムで起こしたというようなことも一度ではなかったようです。
結局彼は確約が取れなかったはずなのに、県内ナンバーワンの私立高校に入学しました。ナンバーワンの公立高校に落ちてしまったんですね。このときの彼の落ち込みは、ものすごく大きかったようです。そして私もひどく落ち込みました。
彼が塾に来たのは、公立の発表から2日が経ってからでした。受験当日に行われた塾のお別れ会に彼は来なかったんですね。来たけれど、私のいるうちには来なかった。私に会いたくなかったのかもしれません。
鍵と貸していたテキストを持って塾にやってきた彼は、私が事務所に顔を出すのを待っていたようでした。
「これ、ありがとうございました」
確か彼は、無愛想にそんなことを口にしたと思います。
そんな彼を見て、私は涙が出てきました。
「公立は落ちちゃったけれど、お前は俺の誇りだから」
それを言うのが、精一杯でした。
あれから3年が経ち、彼は4月から大学生になります。都心の大学ならば、先生をやってもらえないかな?と思っていましたが、彼は関西の大学への進学が決まったそうです。後期で合格したということです。
「あなたらしい大学の決め方だと思います。小さくなんかまとまらずに、あなたらしい人生を送ってください。
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