2013年5月1日水曜日

「保護者の皆さんと連絡を取り合いたい」




 いろんな塾がある中でシローズに来てくれた子たちの成績の上がり方って、たぶん二通りあるのだと思います。
 一つはシローズの授業によってだけで上がる。これは大きく成績を上げるというよりも、徐々に徐々に成績が上がっていくという感じです。たとえば偏差値45の生徒が48になり、50になって、やがて53で受験を迎える。中学での学年順位も塾に来る前は、ほぼ3桁に近い2桁だったのが、30位付近まで順位が上がった。そして見事県立〇〇高校に合格した。当然保護者も生徒も大喜びで喜んでいる。
 もう一つの場合は、上と同じ偏差値が45、中学での学年順位がほぼ3桁に近い2桁だった子が、塾で講師たちからいろんな話をされ、時には塾長である私から厳しい言葉を投げかけられたりしながら、しだいに家で一人部屋で過ごす時間が多くなっていく。母親は子どもの変貌ぶりに驚きながらも、自分の手元から我が子が出て行ってしまったようにも思えて寂しさを同時に感じはじめる。中学の成績もかなり上がりはじめ、同じクラスの友だちからは〇〇変わったよな…との声が出始める。2年生3月の北辰テストで初めて偏差値60の壁を破ったその生徒は、蕨高校という言葉を家でし始める。しかしまだ母親は、我が子が蕨高校へ進学できるなど考えてもいない。塾の面談でも、「そろそろ成績の上昇がとまるでしょう」などという、消極的な言葉が出てしまう。
 中3の夏、部活動の終わってからは中学から帰ってくると、自習のためにすぐに塾に行くようになる。家でもやや無口になり、心配した母親は頻繁に塾に電話を入れては、「あの子は本当に塾に行っていますか?」あるいは「塾で勉強しているんですか?」と聞くようになり、時には塾に我が子の様子を見に来たりする。
 中3の1学期の期末で、その子は初めて学年順位で3位となる。そして「お寿司、いつ食べさせてくれますか?」と私に聞いてくる。私が数週間前に、「中学で3位までになったら、お寿司を食べられるだけごちそうする」と言ったのを覚えていたのだと思う。一週間後、私と寿司屋に行ったその子は、2人前半を食べきって元気に帰っていく。
 夏期講習が終わった9月、その生徒は家で「蕨よりは上の高校を受けたい」と言って、両親を驚かす。母親は翌日に、私に電話を掛けて、我が子がとんでもないことを言っていると相談する。
 「うちの子は何か勘違いをしているようなんですが、先生大丈夫なんですか?」
 それに対する私の答えは、「たぶん蕨は大丈夫でしょう」というもの。母親を私のその言葉を聞いて、さらに不安を募らせてしまう。
 そして受験の時期になったその子は、結局浦和市立高校を受験することになる…。そして見事合格。合格発表の日、塾で開かれた送別会に現われたその生徒は講師たちとハイタッチ、塾長である私とは二人とも涙を流しながら喜び合った。
 シローズは上で書いた二つの状況のうち下の方を思い描いて、私や講師たちがそれを追い求めているところがやっぱりあると思います。それが他の塾との違いとなり、安行地区の中では受験でわりと良い結果を出してきた。でも同時にそれについて来れない子たちを出して来てしまったのではないか…との思いがあります。

 いま高校2年生になるある子が、受験直前の1月に塾を辞めてしまったことがありました。シローズを辞めることを決心した理由はいろいろあったのだと思いますが、その子の口から出たのは「シローズには厳しい雰囲気がある」というもの。その子の言葉を借りれば、「もう塾に入った瞬間から、ピリピリとしたムードがあった」というものでした。受験直前の中3Sクラスですから、それも当然だとは思いますが、その子にはそうしたムードが重荷になってしまったのだと思います。
 学校と違い、塾は短時間で生徒と向かい合う必要があります。それも成績を上げようとすれば、今日の生徒の精神的状況と言うべき、本来はやはり第一に向き合うべきことが、どうしても優先順位の最後の方に回されてしまう。
 上で書いた高校2年生のことですが、たぶんその子がご家庭で発していたであろう言葉や様子をもっと知るべきだった…というのが、いま私の反省としてあります。その子だけではなく、ここ数年の間にシローズを辞めてしまった生徒たちを考えたとき、やっぱり彼らが発していた声を前もって聞き取ることができれば、そうはならなかった…との後悔が残ります。
 どうしたらそうした問題を解決できるのか?
 「生徒の負担のならないような指導を心掛ける」というのは、ちょっと違うと思います。そんなことをしたら、安行地区・新郷地区の中学生たちが上位の高校に進学する機会をこれ以上減らすことになってしまいます。ですからこれからも、生徒に成績を大きく上げる要素があると思えば、どんどん成績を上げようという姿勢は、やはりシローズとしては持っていたい。だから問題なのはその子に対するケアーなんだと思います。そのために、今までしていなかった何かをする必要があるのだと思います。
 いま私が思う解決策は、保護者の方と頻繁に連絡を取り合うことです。電話でそしてメールで、保護者の皆さんとできるだけ連絡を取り合う必要がある。以前から連絡はさせていただいていたのですが、やはりそれでは少なかった。もっと塾側は生徒の精神的な状況を把握しなくてはならないし、それによる生徒みんなに対するケアーを常に考えていなくてはならない。また保護者の皆さんにも、塾側の生徒のみんなに対する一見無謀とも思えるような要求の真意を理解していただく必要があるのではないか。いまそんな思いを強く持っています。
 私が考える理想の指導とは、外科手術のようなものなのかもしれません。放っておいたら手遅れになってしまう生徒たちの学力を、血管と血管をつなぎ合わせるような手術によって、新たな可能性を生み出していくこと。そのときに必要なのが、その生徒が手術に耐えるだけの体力とハートを持っているかどうかの情報なのだと思います。それを何らかの方法で手に入れたい。それが保護者の皆様との電話やメールといった連絡なのだと思います。
 それができたとき、保護者の皆さんにも、生徒である子どもたちにも、そしてシローズ側も、みんなが喜び合う結果に辿り着けるのではないか…。いまそんな理想を私の心が待ち望んでいます。





 

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